第三帝国 夢の戦闘機
 VTOL機でも先鞭をつけたのは第二次大戦中のドイツだった。ヘリコプターの分野のパイオニアであるフォッケ・アハゲリスが計画したFa269は、世界初のローター変向式VTOL機として有名だ。これは主翼の両端にローターを2つ付けて、離陸時はローターを下に向けてヘリコプターのように行い、水平飛行はこのローターを推進式に変向するものだった。
 フォッケウルフ社が計画したTriebfluegel(トリーブフリューゲル=推進翼)は、もっとユニークなものだった。制空権も奪われて、日夜激しい連合軍の爆撃にさらされながらFw社が考え出したのは、翼端に推力800kgのラムジェットを取り付けた回転翼を胴体の真中に配置した戦闘機だった。離着陸は垂直に行い、速度の調節はラムジェットの推力の増減による回転翼の速度の増減と尾翼の舵面でコントロールするというもので、完成していたとしても実用化は無理だったのではないかと思われるしろものである。この形式だと回転トルクが発生しないのでヘリコプターのようなトルク打消しのためのメカニズムが要らないが、推力の微妙なコントロールが必要な垂直姿勢での着陸時の操縦の困難さは容易に想像できる。
 しかし、滑走路のない未整備の広場や輸送船上からでも要撃に発進できる戦闘機の可能性が見えてきたことは事実であり、これらの研究資料が戦後の各国によるVTOL機開発競争の火種になったことも、また事実である。
イギリス初のVTOL研究機 ショートSC.1
 イギリスで最初のVTOL機は、ショート社が開発したSC.1研究機だった。ロールス・ロイスRB-108ターボジェットエンジンを4基胴体に垂直に取り付けて浮上用とし、後尾に付けた別の1基を水平飛行用に使うという設計だった。エンジン1基当たりの推力が966kgだから、浮揚推力は4ton足らず、これでは力不足なのは明らかだ。ホバリング中の機体の姿勢は、エンジンから抽出した高圧空気を翼端、機首、尾部から吹き出すことでコントロールできる。1号機は1957年4月2日、2号機は翌年の8月6日にそれぞれ初飛行している。と言っても、安全の為にワイヤーロープで繋ぎ止めての浮上だったので、本格的な自由浮上は1958年10月25日のことになる。1号機は2号機より遅く、1960年7月20日に自由浮上している。2号機は、1960年5月にパリ航空ショーに出品された。
 これによりSC.1は、英仏海峡を横断した最初のVTOL機の栄誉を受けた。1963年10月2日、ジャイロ装置の故障から2号機は墜落大破し、パイロットが死亡するという事故が起きたが、それを契機に各部の欠点を洗い直して2号機も修復され、その後のVTOL機の開発に貴重な研究資料を提供した。
機種名 全長m 全幅m エンジン 最高速度 固定武装  
ライアンX-13 7.23 6.36 R.R.エイボン28-49 4,350kg×1 483mph ナシ 1957.4.11 アメリカ
ショートSC.1 7.16 7.44 R.R.RB 108 970kg×1 296km/h ナシ 1957.4.2 イギリス
コンベアXFY-1ポゴ 10.7 8.4 アリソンYT-40-A-14 5,850eph×1   ナシ 1954.8.1 アメリカ
ロッキードXFV-1 11.4 9.4 アリソンYT-40-A-14 5,850eph×1   ナシ 1953.12.23 アメリカ
ドルニエDo31 20.88 18.06 R.R.ペガサス5 7,030kg×2 R.R.RB162-4D 2,000kg×8 350kt ナシ 1667.2 西ドイツ(現ドイツ)
VFWフォッカーVAK'191B 14.72 6.16 R.R.RB193-12 4,610kg×1 R.R.RB162-81 2,720kg×2 マッハ0.96 ナシ 1963.12 西ドイツ(現ドイツ)
ヤコブレフYak-36フリーハンド 16.15 8.23 2100-2,700kg×2 マッハ0.85 ナシ 1967.4 ソビエト(現ロシア)
ヤコブレフYak-38フォージャー 15.2 7.1 リューレカAL-21改 8,000kg×1 コレソフ・リフトジェット 2,300kg×2 マッハ1.1 外装Gsh-23機関砲ポッド AA-2またはAA-8AAM×2 1971 ソビエト(現ロシア)
マクドネル・ダグラスAV-8BハリアーII 14.10 9.25 F402-RR-406 6,005kg×1 マッハ1弱 GAU-12 U機関砲 25mm×1 1981.11 アメリカ
<<BACK / NEXT>>

Copyrights 2006 Koizumi Kazuaki Production Allright reserved.